2011年3月4日金曜日

mixiを徘徊した無職男 野崎勇太

ミクシーやめてフェイスブックにしたほうがいいですよ


〈ドラマキャスティングを多数行っています〉〈デビューさせます〉。インターネット上にこんな文言が踊っていれば、芸能人やミュージシャンを目指す人だけでなく、誰でも興味を抱くことだろう。だが、“釣り”の場合も少なくないので要注意。ネット掲示板に芸能関係の人材派遣会社を装って書き込み、登録料をだまし取ったとして、無職の男が詐欺容疑で警視庁に逮捕される事件があった。犯行に使われたのはSNSサイトのmixi(ミクシィ)。「会員制」ゆえの安心感が盲点となったようだ。


 ミクシィの「キャスティング総合掲示板」。都内に住む音楽家の女性(26)が「バンドアーティスト募集」という書き込みを見たのは、昨年11月だった。

 書き込み欄には、アーティストを目指す人たちをひき付けるような文言が並んでいた。 

 〈デビューさせます〉

 〈インディーズブームを再び起こしましょう〉

 〈ツアーも行います〉

 女性は早速、相手と携帯電話のメールで連絡を取り始めた。送られてくるメールは真実味を帯びていた。

 〈沖縄県の○○ホテルで演奏会に出演してほしい〉

 音楽家として生計を立てていくことを目指していた女性。すっかり演奏会に出演できると信じ込み、今年1月中旬までの約2カ月間で、登録料や沖縄県までのツアー旅費などの名目で計約43万円を支払った。

 しかし、相手の連絡が途絶えてしまう。

 演奏会の日程が近づいてもナシのつぶて。会場とされていたホテルに問い合わせてみても事実確認ができなかったため、被害に気付いて同月中に警視庁練馬署に相談した。

 パソコンのアクセス記録や携帯電話の履歴をたどるなど内偵捜査したところ、やがて1人の男が浮上。警視庁ハイテク犯罪対策総合センターは11月3日、詐欺容疑で住所不定の無職、野崎勇太容疑者(27)を逮捕した。

 逮捕容疑は6月7日、ミクシィに芸能関係の派遣会社を装って投稿し、民放テレビ局で放映されるとした架空の深夜ドラマに喫茶店のママ役として出演する女優を募り、応募した大阪府の女性声優(50)から登録費名目で現金2万8000円を詐取したなどとしている。

 ■ロケ代50万円請求…「でも報酬は150万円」とウソ

 野崎容疑者はウィークリーマンションと知人宅を転々としながら、パソコンと携帯電話を使ってミクシィにアクセス。架空と実在の世界を巧みに組み合わせながら、“獲物”を狙っていたようだ。

 ミクシィ上で公募した深夜ドラマは架空だったにもかかわらず、共演者には人気男性アイドルグループ「NEWS」のメンバー、手越祐也さんなど実在する俳優を設定。さらに、本物のオーディションの書類審査のように、写真付きの履歴書を送らせていた。

 逮捕容疑となった事件では、応募してきた女性から登録費のほかに、北海道への地方ロケ代や出演料などの名目で50万円を振り込ませようともしていた。前払いの理由は、「出演すれば150万円支払われる」と女性に説明していたという。

 警視庁によると、野崎容疑者は「借金が40万円ほどあり、作夏から始めてこれまでに5件、計60万円をだまし取った」と供述しているというが、この事件が報道されてから、警視庁には他に3件の相談が寄せられている。

 相談者は主に芸能関係で仕事を探している人たち。警視庁は供述のほかにも被害者がいるとみて裏付け捜査を急ぐ一方、冒頭の音楽家女性の被害についても詐欺容疑で立件する方針だ。

 ■「一緒に事業を」…詐欺まがいの書き込み乱立

 現在、会員数約2190万人のミクシィ。今年3月からは、会員の紹介がなくても会員登録できるようになった。しかし、登録者数が増える一方で、ミクシィを舞台にした事件は後を絶たない。

 捜査関係者は「立件には至らないが、詐欺まがいの怪しい書き込みはたくさんある」と話す。

 今年1月には、ミクシィで会員のIDやパスワードを不正に入手して別人になりすまし、利用者同士が交流できないうその出会い系サイトを運営、利用料金をだまし取ったとして、詐欺容疑でサイト運営会社の元会長の男が逮捕された。

 今回の事件では、野崎容疑者も別人になりすまして犯行に及んでいた。会員登録の際には知人女性名義の携帯電話を使って登録、偽名で書き込みをしていたのだ。女性には「一緒に事業をやろう」と持ちかけていたという。

 ミクシィではサイト上で会員に対し、友人以外とのやり取りについて注意喚起しているが、今のところ被害を完全に防ぐ手段は見当たらない。

 ネット犯罪に詳しい甲南大学法科大学院(刑法)の園田寿教授は「ミクシィは当初、知り合いに紹介されて初めて会員登録できる仕組みだったこともあり、利用者に安心感があったのかもしれない」と今回の事件を分析し、「登録の際に必ずしも確かな身元確認をしているわけではないので、全面的に信頼できる相手ばかりではないことを心に留めておくべき」と警鐘を鳴らしている。